合同会社秋田里山デザイン / さとやまコーヒー
第2回 ・ 2025年7月 – 2026年6月

TNFD提言に基づく
情報開示

私たちのコーヒーが、自然環境に何を頼り、どんな影響を与えているのか。

発行日2026年9月10日
対象期間2025年7月〜2026年6月
代表社員大西 克直
はじめに

私たちがこのレポートを書く理由

いま、地球は「大絶滅時代」を迎えていると言われています。推計100万種の生きものが絶滅の危機にあり、その速さは過去1000万年の平均と比べて数十〜数百倍と言われています。

私たちの暮らしは、自然の恵みを多く受けています。きれいな水、作物を実らせる土、花粉を運ぶ虫、雨を蓄える森。こうした恵みは「生態系サービス」と呼ばれ、その経済的な価値は年間で1京円(1兆円の1万倍)を超えると推定されています。生きものの多様さ、つまり「生物多様性」は、この恵みを支える土台です。コーヒーも例外ではありません。コーヒーの木は森の木陰で育ち、雨に頼り、虫に花粉を運んでもらって実をつけます。

ところが、いまの経済のしくみは「自然が失われること」を数字に表さない構造になっています。私たちの経済活動が自然にどんな影響を与えているかが見えないので、誰もその費用を負担しなくてよいことになっている。ここに問題があります。

TNFDとは
企業が「自分たちの事業は自然にどう頼っていて、自然にどう影響しているか」を整理して公開するための、世界共通の書き方です。正式名称は「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)」。2023年に公表されました。もともとは大企業が投資家向けに書くことを想定したものですが、TNFD自身は「小さな会社も使ってほしい」という立場をとっています。この青い枠は、本レポートの中で「TNFDが何を求めているか」を説明するときに使います。

ではなぜ、従業員10名未満の私たちがこれを書くのか。私たちの会社は「合同会社秋田里山デザイン」といい、「さとやまコーヒー」というブランドを運営しています。この名前には「暮らしも、地球も、一緒に良くしたい」という想いを込めました。だからこそ、コーヒー産地の自然について透明な情報を出し、清々しくコーヒーを楽しんでいただきたい。それが理由です。

昨年からの進捗

去年(2025年6月)に出した最初のレポートで、私たちは2つの「できていないこと」を正直に書きました。
1つは、自然への影響をはかる物差し(評価の方法)がまだ無いこと。もう1つは、コーヒーを買うときの基準が文章になっていないこと。そして「来年はこの2つに取り組む」と宣言しました。1年たった結果は、次のとおりです。

物差しをつくる
コロンビアで5つの軸の評価基準を設計。衛星データで森を測る手順もできた。
物差しで実際に測る
衛星で調達先6地点の森を測り、エチオピア2農園で生きものを聞き取った。農家ごとの5軸評価はまだ。
買付の基準を文章にする
「生豆調達方針」として明文化した。
産地を訪ねる
エチオピア1回、コロンビア1回。
昨年にはなかった動き:試験的な販売

コロンビアから生豆 48kg を輸入し、秋田で試験的に販売しました。「自然にとって良い作り方のコーヒーは、本当に売れるのか」を、初めて数字で確かめた1年です(第2章)。

TNFDレポートの構成
TNFDは、レポートを4つの柱・14の項目で書くよう求めています。①ガバナンス(誰が責任を持つか)、②戦略(自然とどう関わっているか)、③リスクと影響の管理(どうチェックするか)、④測定指標とターゲット(何をどう測るか)。今年から、記載する項目をこの14項目に1つずつ対応させました。
1ガバナンス3項目 ・ 誰が責任を持つか
2戦略4項目 ・ 自然とどう関わるか
3リスクと影響の管理4項目 ・ どう見張るか
4測定指標とターゲット3項目 ・ 何をどう測るか
本レポートの作り方について
本レポートの内容は、代表大西がすべて確認し、責任を持っています。文章の下書き、衛星データの集計、図表の作成、デザインには一部AIを使用しています。レポートの信頼性にかかわる数値と事実は、一次資料(インボイス、聞き取りの記録、公開データ)にさかのぼって代表が確認しています。
不明な点、間違っている表現、ご指摘などがあれば、いつでも info@satoyamacoffee.com までご連絡ください。
1 / ガバナンス

誰が責任を持っているか

TNFDが求めていること
A. 経営トップが自然関連の課題をどう監督しているか/B. 経営者が実際に何をしているか/C. 働く人や地域の人の権利をどう守っているか、の3つです。
1-A・1-B 責任体制と、実際にやっていること

私たちは、代表社員1名が最終的な意思決定を行う会社です。自然に関する判断も、代表自身が行っています。この体制は去年と変わっていません。今年変わったのは、調達方針を明文化したことです。

去年(2025年6月)今年(2026年6月)
責任体制代表が自ら把握し、事業の判断に反映変更なし
意思決定買付の際は現地を訪れ、農家との対話をもとに判断同じ。
今年はエチオピア・コロンビアに各1回訪問
調達方針明文化されていない「生豆調達方針」として明文化(2026年6月30日制定)
記録買付ロットごとに産地・生産者・精製方法・数量・位置情報を記録する運用に変更

調達方針の中身は、大きく3つです。

木陰で育てられたコーヒーであること
森の木を残して育てる栽培であること。
(アグロフォレストリーを含む、その土地に合った自然と人の共存の形)
どこで作られたかを記録すること
農園または精製所の緯度・経度をロットごとに残す。小規模農家が多い産地では精製所と集荷範囲を記録し、訪ねた農園を代表例として記録する。
生産者と直接対話すること
買う前に現地を訪ね、栽培・精製・働く人のことを聞く。訪問は取扱国ごとに2年に1回以上。
森を農地に転換することについて

原生林の中でアグロフォレストリーを始めると、森が農地に転換されたことになります。農業は原生林に影響を与えます。自然との共存がしっかり考えられていなければ、農地への転換はマイナスに受け止められます。

ただ、2026年9月に私たちが訪れたインドネシアでは、「適切な農地転換」をすることで「原生林の皆伐を防ぐ」という環境NGOの取り組みがありました。インドネシアでは、政府が食料とエネルギーの自給のために約2,000万ヘクタールの森林区域を農業などに充てる方針を示し、2025年の森林減少は前年より66%増えたと報告されています(Auriga Nusantara調べ、43万ヘクタール)。森を切り開く圧力が強い場所では、森の木を残したまま作物を育てることが、皆伐を防ぐ現実的な選択肢になります。

私たちは、その土地の状況にとって最適な、自然と人の共存の形を見据えた調達の姿勢を大切にしています。

1-C 産地の人たちとの関わり方(人権と、地域の人の声を聞くこと)
この項目で書くこと
TNFDは、自然の課題を考えるときに「その土地で暮らし、働く人たち」を抜きにしてはいけない、という立場です。そこでこの項目では、①働く人の権利についてどんな方針を持っているか、②産地の人たちの声をどうやって聞いているか、③それを経営者がどう見ているか、を書くように求められています。去年のレポートでは、雇用創出などについて他の項目の中で触れただけでしたが、今年からこの3つをここにまとめて書きます。

私たちにとっての「産地の人たち」は、コーヒーを育てる小規模農家と、収穫や精製を担う労働者です。声を聞く手段は、産地を訪ねての聞き取りです。

産地今年行ったこと
エチオピアシダマとグジの農園主に、農園とその周りに暮らす生きもの、栽培の方法について聞き取りを行いました(第3章)
コロンビア生産者本人から、雇っている労働者の賃金について聞き取りを行いました。収穫を担う「ピッカー」の賃金は 1kgあたり1,200ペソ、1日におよそ 60kg を摘む、という水準でした
まだできていないこと「生活賃金(人が普通に暮らしていける賃金)」の基準値は、まだ設定していません。人権に関する独立した方針文書もありません(次年度に作成します)。今年は、実態を記録するところから始めました。
2 / 戦略

自然と、どう関わっているか

この章で書くこと
TNFDはこの章を「戦略」と呼び、自然との関わりを踏まえて事業の進め方をどう決めているかを書く章としています。私たちはここで、A. 自然に何を頼り、自然に何をしているか、そこからどんなリスクと機会が生まれるか/B. それが私たちの事業をどう変えたか/C. 未来が違う方向に転んでも続けられるか(シナリオ分析)/D. 自然にとって重要な場所と関わっているか(優先地域)、の4つを書きます。
依存
自然から受け取っているもの。雨、木陰、花粉を運ぶ虫、水など。
影響
私たちの活動が自然に与えているもの。土地の使い方、排水、CO₂など。
リスク
依存や影響のせいで、事業がうまくいかなくなるおそれ。豆が届かない、高くなるなど。
機会
自然を大切にすることが、事業にとってプラスになる場面。
2-A 自然に頼っていること、自然にしていること

去年は、ENCORE・IBAT・Global Forest Watch・WWFリスクフィルターという専門のツールを使って、コーヒー生産全般の依存と影響を洗い出しました。仰々しい表になったので、今年は繰り返しません。代わりに、そのうち私たちのこの1年の判断に実際に効いた項目だけに絞ります。

何に今年、どう表れたか
依存雨(量と時期)収量・品質・輸入の時期を左右します。今年、雨の変化が収量や品質にどう影響したかは把握できていません。(次年度から生産者への聞き取り項目に加えます)
依存木陰(シェードツリー)と、花粉を運ぶ虫輸入した生豆2,628kgと、受託焙煎で預かった豆50kg(グアテマラ20kg、ブラジル30kg)の、すべてが木陰栽培のものでした。
依存精製に使う水水をほとんど使わない「ナチュラル精製」を優先して買いました。(今年の65%)
依存土を留めておく働き(斜面の侵食を防ぐ)コロンビアの農園は標高1,200〜1,750mの斜面にあります。木の根と落ち葉が土を留め、雨で流れるのを防いでいます。木陰栽培を続けること自体が、この働きを守ることになります。
影響外来種(もともとその土地にいなかった生きもの)次の産地として検討している東ティモールの農園では、外来の雑草が広がって土の養分を奪い、困っているという聞き取りをしました。
影響土地の使い方を変えること木を残さず切り開いた畑の豆は買わない。木陰栽培も転換の一種として、樹木の残り方を記録します。(第1章)
影響精製の排水ナチュラル優先で減らす
影響輸送のCO₂今年は2回とも航空便。1回目は10.9トン(第3章)
リスク供給が不安定になる2-Cのシナリオ分析へ
機会「水を使わない精製」と「売れる味」が一致したコロンビアで確認(2-B)
2-B 自然との関わりが、事業をどう変えたか

私たちはこれまで、産地から生豆を輸入し、焙煎して販売することを主な事業にしてきました。今年、コロンビアで次の一連の流れを、初めて自分たちが主体となって実行しました。

01自然にとって重要な産地を見つける
02評価の物差しをつくる
03生豆を日本に運ぶ
04本当に売れるかを確かめる
コロンビアでの試験販売
枠組み:IGES(地球環境戦略研究機関)の「里山イニシアティブ推進のための開発メカニズム(SDM)」2024年度事業。現地の環境NGO「CORFOPAL」、私たち、国際教養大学の3者で実施しました(2024年12月〜2026年4月)。
対象:バジェ・デル・カウカ県ダグア川流域の小規模農家3軒。
輸入量:48kg。試験用の生豆は生産者から提供されたもので、今回、買付代金は発生していません。費用は助成金で賄いました。
販売:2025年10〜12月、秋田県内の百貨店で。精製(ナチュラル/ウォッシュト)×焙煎(深煎り/浅煎り)の4種類を同じ価格で並べ、試飲した方のうち何%が購入したか(購入率)を数えました。
試飲した方のうち、購入した方の割合
ナチュラル × 深煎り 12.4% ウォッシュト × 深煎り 8.4% ナチュラル × 浅煎り 5.8% ウォッシュト × 浅煎り 4.3% 試飲870杯、購入125点。ナチュラル×深煎りは完売。
この結果からわかること

ナチュラル精製(果肉をつけたまま乾かす方法で、水をほとんど使いません)は、精製の水を減らせるだけでなく、他の精製方法と比べてもよく売れました。去年、水資源への依存を理由に「ナチュラル精製の豆を積極的に買い付ける」と書いた方針が、お客様の選択とも一致していたことになります。

これからのこと ── 生豆の販売にも取り組みます

これまでの私たちは、生豆を輸入して焙煎し、焙煎したコーヒーを販売してきました。これからは、生豆そのものを他の焙煎会社に販売することにも取り組みます。狙いは、飛行機ではなく船のコンテナで運べる量(数トンから十数トン)を、産地から日本に届けることです。量がまとまれば生産者にとって安定した出荷先になり、輸送にともなうCO₂も1kgあたりで大きく減らせます。対象として考えている産地は東ティモールとインドネシアです。コロンビアからの本格的な輸入も、次の年度に向けて進めています。

2-C シナリオ分析
シナリオ分析とは
「こうなるかもしれない未来」を2つ以上想定し、自分たちのやり方がどの未来でも続けられるかを確かめる作業です。私たちは自分たちの規模でできる範囲で考えました。

去年は「今後コーヒーの供給が不安定になる」と一言書いただけでした。今年は、私たちの日々の仕事に実際に影響する2つの軸で考えます。1つ目は自然の変化。雨の量や時期、気温が変わると、産地の収量・品質・出荷の時期が変わり、収量が減れば生豆の価格は上がります。2つ目は物流(ロジスティクス)。航空路線、国際情勢、為替や資金の制約によって、輸入の時期と費用が変わります。

2つ目は自然の話ではありませんが、今年、実際に起きたことです。2026年4月の輸入分は、中東情勢の悪化で通常の航空ルートが使えず、取引先の輸出業者がヨーロッパの倉庫に保管していた生豆を輸入しました。自然の変化と物流の混乱は、私たちの規模では、同じ「豆が届かない」「豆が高くなる」という形で現れます。

物流:安定
物流:不安定(今年)
自然:緩やかな変化
現在のやり方を続けられる
在庫を厚めに持つ。ヨーロッパの倉庫を活用する(今年実施)
自然:急な変化(収量減・品質低下・価格上昇)
産地を増やして分散する。生豆が高くなる分、原価と価格を見直す
最も厳しい。産地の分散、原価と価格の見直し、船便に切り替えられる量の確保が、すべて必要になる
私たちの考え

どの未来になっても、「木陰で育てられたコーヒーを買う」「どこで作られたかを記録する」という方針は変えずに続けられます。いちばん心配なのは、産地が2カ国に集中していて、扱う量が小さいことです。だから私たちは、取扱産地を増やすこと(国際情勢と資金の面からも必要です)と、コンテナで運べる量に育てること(生豆の販売)を進めます。

規制について(EUDR)
EUには「森林を破壊して作られた農産物をEU市場に持ち込んではならない」という規則(EUDR)があり、2026年12月30日(大企業・中堅企業)、2027年6月30日(零細・小規模企業)から適用されます。私たちはEUに輸出していないため、直接の対象ではありません。ただし、産地の輸出業者はEU向けに農園の位置情報を求められるようになるため、産地側で位置データが整いやすくなるという間接的な影響はあります。
2-D 自然にとって重要な場所(優先地域)
優先地域とは
生きものの多様さ、生態系の健全さ、水不足、地域の人々にとっての重要性などの点で「重要な場所」に接している事業活動は、その場所を明示するよう求められています。

私たちは、調達先のコーヒーの産地を「重要な場所」としています。

エチオピア シダマ州/グジ県
Teferi Kela、Guji Megadu 周辺
なぜ重要か:今年取得した座標でIBAT(生物多様性の国際データベース)を使って調べ直しました。シダマのTeferi Kela精製所は、半径50km以内に生物多様性重要地域(KBA)1カ所(Anferara forests)と保護地域2カ所(Loka-Abaya国立公園、Bore-Anferara国有林優先地域)があり、絶滅危惧種(IUCNの CR・EN・VU)59種が生息している可能性があります。グジの精製所は、同じKBA(Anferara forests)まで約9km、保護地域3カ所(Anferara-Wadera、Bore-Anferara、Megada の各国有林優先地域)、絶滅危惧種47種でした(2026年9月時点)
今年の状況:精製所2カ所と農園1カ所の座標を取得し、衛星データで周辺の森を計測しました(第3章)。去年のレポートの座標は精度が粗く、今年修正しました
コロンビア バジェ・デル・カウカ県
ダグア川流域(Dagua、La Cumbre)
なぜ重要か:乾燥林から高地の森まで標高差4,000mの生態系が連なり、保護区(DRMI Atuncela)に隣接。現地NGOの調査で流域内で最も生きものが多いとされた区画が、農園の1つ(El Chilcal)です
今年の状況:農家3軒の座標を取得し、衛星データで周辺の森を計測しました(第3章)
3 / リスクと影響の管理

どうチェックしているか

TNFDが求めていること
A. 自社の事業(私たちなら焙煎・販売)と、仕入れ先・販売先(私たちなら産地)で、リスクをどう見つけて評価しているか/B. どう監視しているか/C. 会社全体の判断にどう組み込んでいるか、です。
3-A(i) 自社の事業(焙煎・販売)

今年から輸送にともなうCO₂を記録対象としました。今年の輸入は2回とも航空便でした。

1回目 ・ 2025年10月 ・ ベルギー→成田 ・ 総重量1,100kg(生豆1,020kg)
10.9 トンCO₂e
実測値。運送会社が国際規格 ISO 14083 に基づき算定
2回目 ・ 2026年3〜4月 ・ 英国→日本 ・ 1,560kg
約16 トンCO₂e
推定値。1回目の実測値から求めた「1トンを1km運ぶときの排出量」を当てはめて計算
輸送のCO₂は、どうやって出すのか
運送会社が請求書に記載してくれる場合があります(今年の1回目がそうでした)。記載がない場合も、「重さ × 距離 × 1トンを1km運ぶときの排出係数」で自分たちで計算できます。係数は国際的な基準(GLEC Framework)で公開されています。ですから今後は、算定できないという理由で開示しないことはありません。ただし「実測」か「推定」かは必ず明記します。
3-A(ii) 産地(仕入れ先)

自然への依存と影響のほとんどは、産地にあります。私たちがそれを見つける手段は3つです。①産地を訪ねて話を聞く(今年:各1回)、②衛星のデータで森を見る(ESA WorldCover、Global Forest Watch)、③生産者からロットごとの記録をもらう(精製方法、乾燥日数など)。優先順位は「森を切っていないか」、次に「水をどう使い、どう排出しているか」、そして「働く人の条件」の順です。

3-B 監視の仕組み

去年、「生物多様性評価のプロトコルは現在策定中で、本レポートに反映させることが叶いませんでした」と書きました。今年できたものは3つです。

5つの軸の評価基準(コロンビア)

現地NGO・大学と共同で、小規模農家でも使える評価基準を設計し、共著論文としてまとめています(執筆中)。

何を見るか指標の例
生物多様性森の割合、生きものの豊かさ、水の量と質森林被覆率、主要な種の数、水質
地域と暮らし地域の雇用、住民の参加、男女の公平地域雇用の割合
知識伝統的な知恵と、新しい工夫伝統的な方法の記録
生計農家の収入が続くか、収入源の多様さコーヒー収入、作物の多様さ
生産方法木陰栽培、農薬の不使用、水を使わない精製現地での確認、禁止農薬の不使用

認証にかかる費用を小規模農家が負担できる水準に抑えることを目的に設計しています。評価の方法や仕組みの詳細は、論文の公開に合わせて共有します。

この基準はまだ「設計」の段階です。項目の最終決定は共同で進めている現地NGO側の作業を待っている状態で、来年6月までに産地で実際に評価を行える見通しは立っていません。そこで来年度は、この基準の完成を待たずに、私たち自身で測れる3つ(衛星による森林被覆率、生きものの聞き取りリスト、ロットごとの精製記録)を先に実施します。5つの軸による評価は、準備が整い次第行い、できなければ来年のレポートで「できなかった」と書きます。

収穫後の記録様式(コロンビア)

共同事業の中で、収穫後の工程(選別・発酵・乾燥・保管)ごとに何を記録するかを定めた手引きを作りました。農家がこれに沿ってロットごとの記録を残せば、上の「生産方法」の軸を確かめる材料になります。実際の運用はこれからです。

エチオピアでの生きものの聞き取り

シダマとグジの農園主に、農園とその周りで見られる木・動物・鳥を聞き取り、その場で紙に書き出してもらいました。シダマでは、名前をシダマ語とアムハラ語の両方で教えてもらったので、アムハラ語の名前から種をある程度まで推定できます(下の表の「推定される種」は私たちの推定で、専門家の確認は受けていません)。

聞き取りで挙がった名前(シダマ語/アムハラ語)推定される種
19Wadicho/Wanza、Dagucho/Zigiba、Gerbicho/Tikur Enchet、Dubancho/Dokima、Hengaedicho/Biribira、Maticho/Sesa、Masincho/Bisana、Grawa/Grawa、ほか Shoecho、Tonkicho、Holoncho、Shisho、Kobire、Odako、Setamo、Gidincho、Velako、Hecho、RegichoWanza=Cordia africana、Zigiba=Afrocarpus falcatus、Tikur Enchet=Prunus africana(IUCN絶滅危惧II類)、Dokima=Syzygium guineense、Biribira=Millettia ferruginea(エチオピア固有)、Sesa=Albizia gummifera、Bisana=Croton macrostachyus、Grawa=Vernonia amygdalina
動物 10Vene/Gureza、Galasho/Zingero、Kemele/Tota、Amboma/Gib、Daguncho/Nebr、Elesa/Tinchel、Gedala/Kebero、Gedimo/Dikula、Bulicha/Midako、Heiahe/KokeGureza=アビシニアコロブス、Zingero=アヌビスヒヒ、Tota=グリベットモンキー、Gib=ブチハイエナ、Nebr=ヒョウ(IUCN絶滅危惧II類)、Tinchel=ノウサギ、Kebero=ジャッカル、Dikula=ブッシュバック、Midako=小型のレイヨウ、Koke=不明
5Dackie/Dakiye、Kemele/Gindekorkur、Tilalo/Chilifit、Qolante/—、Risa/Tinb-AnsaGindekorkur=キツツキ類、Chilifit=トビ・タカ類、Tinb-Ansa=ハゲワシ類。Dakiye、Qolanteは不明
グジ木10種(ジュニパー、ゲテメ=Schefflera ほか、多くは現地語)、動物3種(「タイガー」と表現された動物、ヒヒ、サル)現地語の木の名前は次年度に整理。「タイガー」が何を指すかは未確認(エチオピアにトラは生息していません)
シダマの農園主が書き出した一覧(木・動物・鳥・エンセット品種)
グジの農家が書き出した一覧
聞き取りからわかったこと

シダマの農園とその周りには、絶滅危惧II類の Prunus africana(薬用にもなる高木)とヒョウが暮らしていると聞き取れました。またシェードツリーとして挙がった木の多くは、エチオピアの在来種です。もう1つ、コーヒーの木陰では「エンセット」(食用のバナナの仲間で、この地域の主食)が育てられていて、この農園主は32品種のうち18品種の名前を挙げてくれました。コーヒー園が、木・野生動物・主食作物の多様さを同時に支えていることが、聞き取りの範囲でわかります。

ただし、これは農園主の記憶に基づく一覧で、私たちが現地で種を確認したわけではありません。

衛星で森を測る(今年、調達先6地点で実施しました)
使ったデータ:ESA WorldCover 2021(10mの細かさで、地球全体の土地の種類がわかる無料データ)と、Global Forest Watch の樹木減少データ(2001〜2024年、30m)。
測り方:TNFDの農業セクター向け指標に合わせ、各地点を中心とする5km四方を1km四方の区画25個に分け、区画ごとに「自然の植生(樹木・低木・草地・湿地)が何%を占めるか」と「樹木が何%を占めるか」を出しました。あわせて、同じ5km四方で2001年以降に樹木が失われた面積の割合を出しました。
各パネルは5km×5km、白線は1km区画、赤い点が取得した座標。凡例:濃い緑=樹木、黄土色=低木、薄い黄緑=草地、黄色=農地、灰色=建物。出典:ESA WorldCover 2021
地点中心1km²の樹木被覆5km四方の樹木被覆(平均)自然植生20%以上の区画樹木の減少 2001〜24年うち2021年以降
Teferi Kela 精製所(シダマ)74%81%25/252.2%0.8%
Guji 精製所70%82%25/2531.1%0.5%
Guji 農園97%76%25/2530.0%0.4%
El Chilcal(ダグア)45%55%25/259.4%1.2%
Flor de Damas(ダグア)70%55%25/255.1%0.1%
Café Celeste(ダグア)63%51%25/257.2%0.1%
「自然植生20%以上の区画」は、5km四方の25区画のうち、自然の植生(樹木・低木・草地・湿地)が面積の20%以上を占める区画の数。樹木だけで20%以上の区画は、El Chilcalで23/25、他は25/25でした。「樹木の減少」は、5km四方のうち2001〜2024年に樹木が失われた面積の割合(Global Forest Watch、Hansen et al.)。
この数字を読むときの注意

グジの2地点では、周辺5km四方の約30%で2001年以降に樹木が失われています。ただしその大半は2003〜2013年に起きたもので、2021年以降は0.5%以下です。原因は特定できていません(この地域は鉱山や農地の開発が知られていますが、私たちが確かめたわけではありません)。私たちがこの精製所から買い始めたのは、この減少がほぼ止まった後です。とはいえ「自分たちの買付が森を減らしていない」と言い切るには、来年以降も同じ地点を毎年測り続ける必要があります。

もう1つの注意は、衛星は「森」と「木陰のコーヒー園」を区別できないことです。木陰栽培のコーヒー園は、上から見れば樹木に見えます。ですから上の「樹木被覆」には、コーヒー園の木陰も含まれています。木がどのくらい残っているかを正確に知るには、現地で樹冠の様子を記録する必要があり、これは来年度の課題です。

去年のレポートに載せた座標(北緯5.4°、東経38.5°)は小数1桁の粗い位置で、衛星で見ると森林帯の外側を指していました。今年、精製所・農園の座標を取り直して修正しています。

3-C 会社の判断への組み込み

私たちには、リスク管理の専門部署はありません。自然に関するリスクは、代表が買付を判断するときの基準(調達方針)と、このレポートを年に1度書き直す作業に組み込まれています。

4 / 測定指標とターゲット

何を、どう測るか

中核指標とは
TNFDには「すべての企業に共通で開示してほしい指標(中核指標)」があり、農業向けにも追加の指標が定められています。ルールは「開示するか、開示できない理由を説明するか(comply or explain)」。無理に数字を作るより、出せない理由を正直に書くほうが枠組みに忠実だとされています。
4-A 私たちの事業に効く指標
生豆の取扱量
2,628 kg
エチオピア 2,580kg(2回)/コロンビア 48kg
産地訪問
2
エチオピア1回、コロンビア1回
取扱産地の数
2 カ国
エチオピア、コロンビア
木陰栽培の豆の割合
100 %
輸入した生豆すべて
精製方法の内訳(水の使用の目安)
ナチュラル系 1,680kg(65%)
ウォッシュト 840kg(33%)
ハニー 60kg(2%)
エチオピア分2,580kgの内訳。輸出業者からのインボイス2通をもとに集計
4-B 中核指標への対応(今年から)
指標今年の対応
森林リスクの高い農産物の取扱量コーヒー生豆 2,628kg(エチオピア2,580kg、コロンビア48kg)
気候変動(CO₂)航空輸送 10.9トン(1回目・実測)+約16トン(2回目・推定)
土地利用の変化(森の減少)調達先6地点の周辺5km四方で、2021年以降に樹木が失われた面積は0.1〜1.2%。2001年以降の累計ではグジの2地点で約30%(大半は2003〜2013年)。木陰栽培も転換の一種として、樹木の残り方を次年度から現地で記録する
水質汚染現時点ではナチュラル精製の使用率を開示。
農地1km²あたり自然植生10%以上/20%以上の割合調達先6地点の周辺5km四方(各25区画)で、自然植生20%以上の区画は100%(150/150)。樹木だけで20%以上でも148/150。ただし木陰のコーヒー園も樹木に数えられている(第3章)
実収量と潜在収量の差×未取得。生産者への聞き取り項目に加える
水ストレスの高い地域からの調達割合0%。調達先6地点はすべて、WRI Aqueduct 4.0 の水ストレス区分で「低い(10%未満)」でした(流域単位の評価)
土壌劣化が起きている農地の割合×測定していません。代わりに、土を守る働きを持つ木陰栽培の割合(100%)を開示しています
廃棄物(包装材・コーヒーかす)×集計していません。産地側の指標を優先するためです

今年、数値で開示できた中核指標は「取扱量」「輸送のCO₂」「土地利用の変化」「自然植生の割合」「水ストレス」の5つです。残りは、開示できない理由と、今後どうするかを書きました。無理に数字を作ることはしていません。

4-C 去年の目標の答え合わせ
指標去年去年の目標今年の実績
木陰栽培の豆の取扱率100%100% 100%(輸入した生豆2,628kgに加え、受託焙煎で預かった豆50kgも木陰栽培)
森林被覆率評価の試行0回1回 1回(調達先6地点で実施)
生物多様性評価の試行0回1回 物差しは設計済み。実測は △
産地の現地調査0.5回/年1回/年 各1回
TNFDレポートの公開1回/年1回/年 本レポート
労働者の対価のリサーチ0回1回 1回(コロンビア)
来年度(2026年7月〜2027年6月)の目標
指標現在目標
農園・精製所の座標(小数3桁以上)6地点新しい産地(東ティモール・インドネシア)も含め、精製所は全件、農園は訪問先を代表例として記録
衛星による森の計測6地点・1回同じ地点を毎年測り、変化を報告する
生きものの聞き取りリスト・ロットごとの精製記録一部全産地で実施
5軸基準による評価設計のみ現地NGOの準備が整い次第。整わなければ「未実施」と報告
輸送のCO₂1便実測全便で算定(実測または推定)
取扱産地の数2カ国3カ国
人権方針の文書化なし策定
おわりに

自然にポジティブな影響を与えられる企業へ

今年はコロンビアという新産地での取り組みもありましたが、プロジェクトの進みにも想定より時間がかかり、本命だった「生物多様性評価プロトコル」の完成と実施を、待っている状態です。ここは悔しい点でした。
一方、事業としては初めての店舗を出店したりと少しずつ体制も安定してきました。そのおかげで、生豆販売の事業にも進むことができそうです。生豆販売が始まると、農家さんから安定してたくさん買い付けることができるし、産地でのプロジェクトもよりスムーズに進みやすくなると考えています。
私たちが産地で購買力をつけることで、自然と共存するコーヒーがより市民権を得られるように、これからも事業を推進してまいります。

ご意見・ご質問は info@satoyamacoffee.com まで
合同会社秋田里山デザイン 代表社員 大西 克直
参考文献・データ出典
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TNFD (2023). Recommendations of the Taskforce on Nature-related Financial Disclosures.
TNFD (2025). Additional sector guidance – Food and agriculture, Version 1.0.
TNFD (2023). Guidance on scenario analysis, Version 1.0.
European Commission, Access2Markets (2026年1月28日). Delay until December 2026 and other developments in the implementation of the EUDR Regulation(規則(EU)2025/2650).
ESA WorldCover 2021 v200. Zanaga et al. (2022). doi:10.5281/zenodo.7254221
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IBAT Alliance (2026). Integrated Biodiversity Assessment Tool(2026年9月10日取得。KBA・WDPA・IUCNレッドリストに基づく)
IUCN (2025). The IUCN Red List of Threatened Species(Prunus africana、Panthera pardus の評価区分)
Hansen, M.C. et al. (2013). High-Resolution Global Maps of 21st-Century Forest Cover Change. Science 342, 850–853. Global Forest Change 2000–2024 v1.12(Global Forest Watch経由)
Quintero Angel, A., Saavedra, D., Onishi, K. & Natori, Y.(執筆中). The Satoyama Label: A Peer-Auditing Certification Model for Sustainable Coffee from Colombian Socio-Ecological Production Landscapes.
輸出業者インボイス(2025年10月20日、2026年3月6日)
運送会社インボイス(2025年10月30日)。CO₂算定は ISO 14083:2023 / GLEC Framework に基づく
Mongabay (2025年1月). Indonesian forestry minister proposes 20m hectares of deforestation for crops./Reuters (2026年3月30日). Indonesian forest loss surges by 66% in 2025(Auriga Nusantaraの報告に基づく)
合同会社秋田里山デザイン (2025年6月12日). TNFD提言に基づく情報開示(第1回)
© 2026 合同会社秋田里山デザイン / さとやまコーヒー TNFD提言に基づく情報開示(第2回) 発行日 2026年9月10日